桜も咲いたというのに先日の雪(東京地方)さむかったですね。夜にはほそい月もでて、さながら「雪月花」。風情もなく雪降るなか近くのプールにいったらさすがにガラガラでした。そりゃそうか。フリーの版画やイラストの仕事ばかりの私ですが、やはり4月はスタートの季節という感じがします。 ぎっくり腰でほぼ一ヶ月おとなしく過しましたが、新作も作り始めました。いずれこのコーナーで紹介できればと思います。近況はこのへんにして、このコーナーも4点目の紹介となりました。なかなか進歩のないまま月日だけが過ぎてゆきますが、あまりにも書き切らないうちに月が替ってしまうので、バックナンバーも折を見て、加筆してゆくつもりです。本編同様よろしくおねがいします。  橋本尚美
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 今月ご紹介するのは『string』という小品です。2年ほど前の作品となりますが、ずっと書いてきたテーマのスタートに近い頃の作品なので、ここで「ひもシリーズ」総括ということも含めてひっぱりだしてきました。
 まず技術的な話ですが、リトグラフ一辺倒だった私が、カレン・クンクさんというアメリカの木版画家と出会って(もともと作品は大好きだったのですが)彼女独特のリダクション・プリント技法のさわりを教えていただき、自分の作品に取り入れ出した頃の作品です。リトグラフは現在もっとも普及している印刷方法であるオフセット印刷の基となった技法です。布地に例えると、ぱったんぱったんの手織りが発展して工場での大規模な織機になったようなものでしょうか。たしかに、中には版画というより印刷(複製)に近い品があるのも事実ではあるし、木版画や銅版画に比べ独特の味がない、と思われてしまうこともあるようですね。しかしながら、私は版画技法の中で一番自由な表現力をもっているゆえだと捉えているし、やはりリトグラフ作品を作るのが一番好きです。今までは木目や銅版画独特の作風がかえって制約に感じることがあったので、他の版種に取り組むつもりはなかったのですが、作品つくりが版種などにとらわれること自体がナンセンスだし、とても楽しく新しい技法に取り組めました。そもそも、新しい技法以前に、カレンに会って新技法にチャレンジ!の場がイタリアはフィレンツェでのワークショップだったので、一ヶ月の外国でのアパート暮し、英語での生活(参加者はみなアメリカ人なので)などなど、すべてが新鮮さと緊張の連続でした。あ、作品の話は?それはまた次回。(いつもこんなで、すみません・・・)
 1週間でこんなに気温が違うとは!でも心地よいですね。さて。時間的にいうと、帰国して自分でリトグラフと木版の併用で制作しはじめたのが、この作品になります。前回書いたイタリアでのワークショップでは、賞味2週間ほどの間に3点制作するだけでなく、史跡名所美術館ベネチアビエンナーレとあちこち果てしなく見てまわる小旅行の過密スケジュールながらも、ひとつひとつはじっくり見てまわれたので、のんびりスケッチしたり、ただ長い間眺め続けたりできました。たいていの私の作品は、なにかを見て描くのでなく「頭の中に浮かぶ様子」を写し出すような作業だったのですが、その3点の作品はその時のスケッチがモチーフとなった作品が多くなりました。今回の作品もその時のモチーフが活かされています。ラヴェンナという小さな街があって、ビザンチンの時代につくられたモザイクで有名なところです。行く前から楽しみにしていた期待をはるかに上回る素晴らしさだったのですが、一番キレイだと思ったのは、とある教会の祭壇の下をのぞくと地下が泉になっていて、金魚が泳いでいました。教会の建物の中にです!水底にはモザイク、水の中からたちあがっている円柱が祭壇を支えているようでした。水面の光が反射して写り込んで、二つの別世界が結び付けられているように思いました。それにしても水の世界は美しかったなあ。お賽銭をいれないと電灯がつかないので見られないんですけど。つづく。

(後記・地下に泉ある教会をモチーフにした作品は「corrente」です。)

さて。そういう水の世界に溶け込んでいるものが円柱といういうチューブでろ過されて抽出されて上昇しているような感じといえばよいのでしょうか。あの直火式のエスプレッソメーカーのような、ぽこぽことささやかな音を立てながら上昇している感じです。この、リダクション・プリント技法は前回も書いたように、ずっと一枚の木版を彫っては刷り彫っては刷りという作業ですが、なにもない一枚の板から何かを見つけだす様な模索している様な作業です。いずれにせよ、私は多色刷の作品がほとんどなのですが、版をかさねて、紙の上に色が重なっていくことは、逆に自分のみつけたい「絵」のベールが一枚一枚はがされて、紙の上に現れていく気がします。自分のなかにあるものが一版で一度であらわれるのでなく、そのひとつひとつの版がまた次の版を「抽出」して見つけだす呼び水となるのです。そういう意味では、そのラヴェンナでみた光景はとても象徴的でした。もちろん版画技法のために作品をつくっているのではありませんが、制作過程も自分のつくりたいもののイメージにあっているように思っています。つづく。
 そんなわけで、タイトルも「string」となり、その後しばらく続く『チューブ状のもの』シリーズとなったわけです。自分が抽出されたりろ過されたりするイメージもありますが、その『中』にいる自分のイメージもあるのです。自分の原形のようなものがその中にみたされている感覚も描いてみたかったのでした。ちょっと抽象的というか観念的かもしれません。最近は、もうすこし、自分(チューブ内)と外界との接点とか、それ以上にもっと視点を変えたものをつくり出しています。ここ数カ月紹介してきた作品はどれもテーマとしては近いものばかりでしたが、そろそろ進化しようかな、ということろです(飽きたのではありません、念のため)。やはり、作品を作るということはその前に、すごく色々と自分の世界にどっぷりつかって考えていることが多いので、掘り下げて考えつづける(絵としてイメージしつづける)と、また新しい視点に出会うことがああります。今後ともおつき合い下さい。今月はここまで。
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