Diario di visita: ブルーノ・ムナーリ

このところ展覧会の会期末の季節なんだろうか、というぐらい会期末が続き、
そのため、一週間のあいだに3回も展覧会回りすることに。

今回は世田谷美術館へ足を伸ばしたものの、乗るつもりだったバスの時間に
間に合わず、だらだら歩くことに。
しかし、美術館まで住宅地につづく道は、ほとんど緑道で、
リッチな土地って、緑の置き方が豊かだなーと常々思ってしまう。
お金出せば豪華な家は一軒建てられるけど、その道に植わってる巨木は
個人の財力でどうなるものでなし。
でも美術だって、バブル期のように、一点豪華な絵画を買ったって
その美術を育て守る人たちのいる環境がなければ、
ほんとに金融商品と変わらなくなってしまうよね。

なんて、余計なことを考えつつ歩いて、やっとつきました。
もう夕暮れ。

入ってすぐ、ゆらゆらモビール群が目に入ります。
今回の展覧会は「役に立たない機械」という副題がついてるのだけど、
このモビールたちの作品名がまさにそれでした。
モビールってなんか楽しそうで大好き。影がまたいい。

いろんな材質で作られてるようだけど
なかでも「陽極酸化アルミニウム」という素材のがありました。
小難しい名前だけど、昔懐かしのお弁当箱などのアルマイトや、
リトグラフのアルミ版(ただし再生版に限る)がまさにそれです。

くわしい仕組みはよく知らないけど。
でも、リトのアルミ版「ただし再生版に限る」というのは、
リトの版は、細かい目立てがされてるものだけど、
新品のアルミ版にそれがなされてるものと(裏はつるつる)、
再生版といって、印刷に使われた刷版の裏を目立てしたものがあって、
その刷版にする工程で、陽極酸化が施されてるそうです。

モビールといえば、私もプラ板にリトグラフを刷ったものと
版画に使ったアルミ版そのものをつかって、モビールを作ったことがありました。
なので、今回のをみて、もっと積極的に「陽極酸化アルミニウム」をつかって
またモビール作りたいと思ったのでした。
それこそ版画作品と、その刷り終わった後の版のモビールを
合わせて展示するとか──なんて、いろいろ妄想が膨らみました。

プラ板にリトを刷ったものと、リトのアルミ版そのもので作ったモビール。

ムナーリに話を戻して、とはいえ、ほんとうに包括的というか
絵画、絵本、デザイン、立体──いろんな作品があって
自分の作品づくりへの刺激を受けずにはいられなかった。
作品をみながら、自分の作品づくりを考えてしまうのでした。

たとえば、「旅行のための彫刻」という作品は
折りたたんでポータブルになるオブジェのことでした。
これをみて、私も以前すごく小さな作品をつくったときに、
「お散歩にも持っていけます」なんて、
わざとふざけたキャプションをつけたことがあって、
でも、もっと本格的に「お散歩用版画」ぐらいのタイトルつけたほうが
よかったんじゃないか……なんて思ったりもしました(笑)。

そして、ムナーリは日本にもよく来ていたようで
色鉛筆で書かれた作品のキャプションに
「クーピーペンシル」というのがありました。
これって、あのサクラクーピーペンシルだよね??
日本に来た時にみつけて気に入ったのかしら。
イタリア語のキャプションでは、mattita colorata(色鉛筆)とだけ。
きっと日本の人だけ、あああれか……なんて思えたかも。

ほんとにいろんな形の作品があって、もちろん見慣れた絵本の原画もたくさん。
とても楽しめました。

しかし、展覧会タイトルのデザインは、BRUNO のUとN、
そしてMUNARIのMとUがNが合体したようなデザイン。
だったら、カタカナのブルーノ・ムナーリも合体さればいいのに
(とはいえ、どうやって合体させようかな……)
なんて、しばし真剣に考えてしまった。

こんな?

みて「よかったー」「たのしかったー」というだけでなく、
ものすごくこちらの創作意欲が掻き立てられる展覧会でした。

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ブルーノ・ムナーリ 役に立たない機械を作った男
2018年11月17日(土)~2019年1月27日(日)
世田谷区立美術館 サイト



Diario di visita: ムンク、ローマの景観

最近の美術展覧会は、宣伝やプレゼンもうまくて、楽しみな反面、大人気すぎて混雑がすごい。
見にいく気が失せてしまうこともしばしば。

今回のムンク展も「叫び」が来ちゃうならもう大変だから、もうパスしようと思っていました。

が、「叫び」はともかく版画作品がかなり多く出展されてると聞いて、
だったらやっぱり見にいくかー、と出かけてみました。

が、その前に。
上野駅の公園口を出て、信号渡ったところにある公園内施設の催し物まとめて掲示板をふと見たら、
国立西洋美術館では、ルーベンス展(これはほんとにパスした)と、
ローマの景観─そのイメージとメディアの変遷」展というものが目につく。
イタリアものは好きなので、あまり時間の余裕はなかったものの、のぞいてみることにしました。

会場は新館奥の版画素描展示室。ピラネージの版画集「ローマの景観」を中心に、
まさに新旧のローマを描いた絵画や写真などいろいろ。木村伊兵衛のもありました。
「ローマの景観」は額入り版画、複製、そして本に綴じられたのが展示されていたけど、
これはペラペラめくってみてみたい・・・。

絵画や版画と違って、写真は現実やそのものを写し出しているように思ってしまうけど、
写真も(もちろんスーパーリアルな絵画も)主題にしろ構図にしろ瞬間にしろ、写す人の意図がなければ成立しない。
写真だからって、現実そのものとは違う──と、改めて思うのであった。

もちろん、ピラネージ作品を堪能したけれど、あわせて意思のある写真も楽しめてよかったです。
それにしてもローマは美しい(実際に行くと小汚かったりするけどね笑)。

そしていそいで、「ムンク展─共鳴する魂の叫び」展@東京都美術館。
もう閉館まで一時間切ったぐらいなのに入場まで行列ができていた!

ムンク展は、わりとまえに国立西洋美術館で装飾をテーマにしたものが開催されてて、
それがとてもよかった。というか、今回の「叫び」のような目玉がないだけに
企画で勝負するしかなかったのだろうけど、まさにキュレーションの妙。

時間もないし、タブローはその時みたし、というわけで、版画作品だけじっくり見ようと決めました。
多くの来場者は逆に、版画のところは早足になりがちで、ゆったり見られてよかったのと、
「みんな版画もちゃんと見なよ!」という気持ちとで、ややフクザツ笑。

そして、ムンクの木版画はこれまでもみる機会があったけれど、
あらためて今回リトグラフ作品をたくさんみることができて、ほんとうに行って良かった!
リト作品のなかではメインの「マドンナ」はステート違いもあって、見比べるのは飽きない。

実際のリトグラフの石版石そのものも展示されていましたが、
これは「マドンナ」と「吸血鬼」の版が背中合わせになっているもの。
そしてよくみると、同じ大きさの石を張り合わせたように見えました(さだかではないけど)。

リトグラフの石版石は使うたびに研いでいくのでだんだん厚さが薄くなり、
薄くなりすぎるとプレス機で圧をかけづらくなるので、
こうやってサイズの同じ別の石をくっつけることは珍しくありません。

作品自体の刷りは、刷り師さんに任せたらしいけど、自身でもプレス機をもっていたそうで、
ムンクがそんなにリトグラフやる気満々だったことがわかって、なんだかとてもうれしかった。

そしてもうひとつ。
木版画では、版木をジグソーで切って、それぞれ違う色インクをのせてから、
また元どおりに合体させて(ジクソーバズルみたいに)一度に刷る多色刷りってあるのだけど、
それはムンクの発案だったんだって。

いろいろと研究心もあり、今回は版画家としてのムンクを見られて、ほんとに行ってよかった。
もちろんやっぱり「叫び」も後ろの方からみる。

そしてスノーボールを買って帰る。
でもちょっと、自画像描きすぎだと思いました笑。
自画像を描く作家の気持ちがいまだにわからん。

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ローマの景観―そのイメージとメディアの変遷
2018年10月16日(火)− 2019年1月20日(日)
国立西洋美術館 版画素描展示室 サイト

ムンク展―共鳴する魂の叫び
2018年10月27日− 2019年1月20日
東京都美術館 サイト

Diario di visita: 辰野登恵子 オン・ペーパーズ

今年は展覧会を見に行ったことも、ブログに書いていこうと思います。
題して、シリーズ「Diario di visita 鑑賞日記」。
果たしてつづくのであろうか。

展覧会はたいてい、まだやってると思ってるうちに会期末間際になり
滑り込むことがおおく、今回もそのひとつ。
辰野登恵子 オン・ペーパーズ@埼玉県立近代美術館。

オン・ペーパーズだけあって、タブローではなく
ドローイングや版画がメイン(タブローもあったけど)。
初期の時代からシルクなど版画作品に取り組んでいたことを知りませんでした。

とりわけ初期のシルクスクリーンは、ノートの罫線やドットなど
一見、無機質なモチーフながら、同じ版をなんども重ねたりモノタイプに近い制作なのかな。
でもその無機質なところへ手を加えていくことで、まったく見え方が違ってくる。
私も小さいとき、地面のタイルなどの模様をひたすら目で追って
脳内で自由に線画をつくる一人遊びが好きだったので
(それとは違うだろうけど)とても共感してしまった。

また初期作品は、イタリアのファブリアーノ紙がよく使われていたようで
当時にしてはかなり贅沢品だったのでは……と下世話な感想も抱きつつ、
だけど80年代ぐらいになると、なぜか国産ブレダン紙が多い。
当時のこの紙はかなり評判悪かったので、高級舶来物から不人気国内品に
変わったところも謎ながら、勝手にあれこれ妄想。

そして、やっぱり最後の展示室のリトグラフ作品は見ごたえあり。
いずれも、パリのリトグラフ工房idemによる刷りで、
数年前に東京ステーションギャラリーで行われた工房の展覧会でも
辰野作品が数点展示されていました。

ただ、年表をみるに、idemとのリトグラフ制作は、作家晩年の数年のようで
もっとリトグラフ制作が続いていたら、と思わずにいられない。
肉筆と版画が、ぞれぞれの制作を刺激し合うようなかんじだったのかな。
ただ、私自身が版画を作ってるせいもあって、
元絵というか下絵となる原寸下書きと、出来上がった版画が
隣同士で並んでる展示はどうなのかなと思いました。
しかも、下絵の方が、額がちょっと大きい(笑)。
かつて、タブロー作品を手ごろな価格で量産販売するための版画作品ならともかく、
いまの版画は、版画として刷り上がってはじめて作品なのであって、
下絵は「原画」とは違うのにと思ってしまう。

とはいえ、そのへんは版画やってる人だけがぐちぐち思うことだろうから
まあいいや……とおもいつつ。
ともかく、オン・ペーパーズ作品どれも素晴らしかったー。

そして、埼玉県立近代美術館といえば、やっぱり椅子!
どれかもらっていいって言われたら妄想をして、
お気に入りを選びました。

猫ちゃんをこの椅子に座らせて、隙間から猫じゃらしを出して遊ぶのだ。
(妄想)

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辰野登恵子 オン・ペーパーズ
2018年11月14日 (水) − 2019年1月20日 (日)
埼玉県立近代美術館 サイト